チェストの豆知識
チェストは、何世紀にもわたる長い歴史の中で、常に変化し続けてきました。工具の発明、職人の技術の向上、そして富裕層からの需要の増大などによって、時代時代、国の時流を受けて、大きな変容を遂げてきたのです。
そんなチェストを時代ごとに見ていきましょう。
原型はコファー
チェストの原型となったとされているものは、コファーと呼ばれるボックス型のものに蓋がついたもので、これが記録に残っている中でも最も古い家具です。
出典 https://www.1stdibs.com/furniture/
引き出し付きのミュールチェストへ進化
コファーは13世紀ごろから流通しはじめ、その後進化していき、ミュールチェストと呼ばれるものが出現しました。
15世紀になると、今でも一般的に用いられている木ネジやほぞつぎと呼ばれる木材の接合方法を採用した、引き出し付きのチェストが誕生します。
16世紀ごろには、引き出し付きチェストはどんどん人気になり、家具の必須アイテムとして流通します。
アン王朝時代に流行 高脚付き洋タンス
「高脚付き洋タンス」と呼ばれるバーウォールナットの美しい木目のスタンド式のチェストは、チェストの脚部分が猫脚やパッド脚、ボビン脚などのスタイルが多く、これらのチェストはウィリアムとメアリーの共同君主時代、アン女王時代の特徴です。
出典 https://www.1stdibs.com/furniture/
18世紀中期 優美なコモード
18世紀の初期までのチェストはすべて長方形の形をとっていましたが、中期に入ると波を打ったような優美な形のチェスト(コモード)も現れてきます。
出典 https://commons.wikimedia.org/wiki/
ジョージ王朝時代 bow frontedスタイル
1770年代のジョージ王朝の時代になると、チェストの表面が曲線を描くように前に突きでた形のチェストが誕生します。(bow frontedと呼ばれるスタイル)
出典 http://www.timmsantiques.com/antique-furniture/
ヴィクトリア王朝時代 収納スペースアップ
ジョージ時代の後、ヴィクトリア王朝に入ると、巨大な邸宅が多く建てられるようになり、コモードや bow fronted、バン脚などのスタイルは引き継ぎつつ、そうした時代を受けて背が高く、収納スペースが広くなったチェストが出てきました。
またこうしたチェストは、フランスの洗練された加工方法から影響を受けており、貝殻が埋め込まれていたり、花の模様を入れるなどの装飾を施していました。ヴィクトリア王朝にデザインされたチェストの材質は主に美しい木目と加工に適したマホガニーを採用しています。
ナポレオン戦争時代 軍隊用チェスト
また、ナポレオン戦争の時期になると、軍隊用のチェストが多く製造されます。
これらのチェストは、将校などが遠征の際に、どこにでも持っていけるように解体できるように作られていました。この軍隊用のタンスには、軍の印が押され、真鍮の取っ手が付けられています。
質が高く、値段を抑えて製造できるように、クスノキが主に材質として使用されました。
出典 http://www.sellingantiques.co.uk/
エドワード時代 美術工芸運動の影響を受ける
その後エドワード時代に入ると、フランスのアールヌーヴォー初期時代や、大量生産に反対する運動「美術工芸運動」の時代のデザインから影響を受けて作られていきます。
とは言ってもエドワーディアンチェストは機械によって大量生産されていましたが、オーク材を裏板として使用したり、一枚板を使用していたりと、とても高いクオリティを誇る作りです。
また、この時代で最も重宝されたのが、くるみの木を使用したアンティークチェストでした。1930年代にニューヨークを中心に流行したアールデコの装飾としてもくるみの木材は重宝されています。
このように、チェストは機能性においても、デザインにおいても、時代時代の流れを受け、常に変容、進化してきました。
装飾だけを見ても、どのように外国の文化の影響を受けてきたのか、過去の流行をもう一度取り入れたりと、当時の人々のアイデアや息遣いを生き生きと嗅ぎとることができます。
当店のチェストは、イギリス製、フランス製を主に扱っていますが、チェストの歴史を頭に置いてデザインを見ると、より深くそれぞれのチェストの裏のストーリーを味わうことができるかもしれません。
材質、脚のデザイン、装飾、コモードスタイルなどの特徴を、それぞれどんな文化、時代から影響を受けてきたのかを参考に見てみてください。